投資戦略ウィークリー 2023年9月4日号” 日銀審議委員コメントと地銀株見直し、中国景気指標” September 4, 2023
■“日銀審議委員コメントと地銀株見直し、中国景気指標”
- 米国では米FRB(連邦準備制度理事会)の関係者が多様な発言を、FOMC(連邦公開市場委員会)が近づいた一定期間(ブラックアウト期間)を除いて活発に行う。両極端な意見が示されることも多い。市場参加者の見方が偏らないようにすることに役立っていると言えるだろう。最近は日銀もFRBに近付いてきたのだろうか。
- 日銀の田村審議委員は8/30、物価2%目標の持続的・安定的実現が見通せる状況になれば「マイナス金利の解除も選択肢の1つに入る」と述べ、政策修正の判断時期については「来年1~3月頃」、物価2%目標について「はっきりと視界にとらえられる状況になった」と踏み込んだ発言を行った。これに対し、中村審議委員は8/31、2%の物価目標を巡り「達成に確信を持てる状況には至っていない」との認識を明らかにした。同委員は日銀による7月の長短金利操作の運用柔軟化に反対票を投じていた。
- 植田総裁の下、長期金利が市場の需給で決まりやすくなり、同時に、中央銀行政策決定会合の発言権者のキャラが立って市場参加者に注目されるようになった面もあるだろう。そして、既に現時点で田村審議委員のようにマイナス金利解除も意外と近いのかもしれないと考える当事者もいるということ自体が、特に銀行株投資を無視できないことを示唆している面もあるだろう。
- 投資戦略ウィークリー2023年6月26日号の2ページ目「実需が動く地域の地銀グループ」で、半導体受託製造の台湾TSMCが工場を建設中の熊本県では、九州フィナンシャルG(7180)、半導体メモリー世界首位の米マイクロン・テクノロジーが工場増設予定の広島県では、ひろぎんHDS(7337)、最先端半導体の国産化を目指す北海道では、ほくほくフィナンシャルG(8337)の株価の年初来騰落率がメガバンクや総資産地銀上位行を上回ることを示した。他方、8月末終値の2015年の高値に対する比較では、メガバンク3グループはみずほフィナンシャルG(8411)を除いて上回っているのに対し、九州フィナンシャルGは約25%、ほくほくフィナンシャルGは約58%下落した株価水準にある。
- 中国リスクに関しては、国家統計局が8/31発表の8月の製造業購買担当者景気指数(PMI)は7と5ヶ月連続で拡大・縮小の境目となる50を下回ったものの、生産や新規受注は50を上回るなどセンチメントの最悪期を脱しつつある面も示した。財新・S&Pグローバルが9/1発表の8月の中国製造業PMI(主に中小企業を対象)も51.0と、2ヵ月ぶりに50を上回るなど回復の兆しを示唆している。中国経済リスク顕在化は人民元防衛のための米国債売りにも繋がりかねず、米バイデン政権も見過ごせない問題だろう。(笹木)
9/4号では、亀田製菓(2220) 、クラレ(3405) 、日本製紙(3863) 、ほくほくフィナンシャルグループ(8377) 、CPオール(CPALL)を取り上げた。
■主な企業決算の予定
- 9月4日(月): 日本ハウスホールディングス、ファースト住建、ティーライフ
- 9月5日(火):泉州電業、不二電機工業、ロック・フィールド、フジ・コーポレーショ
- 9月6日(水):東京楽天地
- 9月7日(木): トップカルチャー、スバル興業、積水ハウス、アイモバイル、ビューティガレージ、Casa
- 9月8日(金):gumi、HEROZ、アイル、アルトナー、エイチーム、オハラ、カナモト、クミアイ化学工業、シーイーシー、トビラシステムズ、フリービット、ベステラ、ポールトゥウィンホールディン、ミライアル、日本駐車場開発
■主要イベントの予定
- 9月4日(月)
・マネタリーベース月末残高 (8月)、日銀営業毎旬報告、国内ユニクロ売上高(8月)
・レーバーデーの祝日で米株式・債券市場休場、ASEAN首脳会議・関連会合(ジャカルタ、2-7日)。関連首脳会議は5-7日、独国際モーターショー「IAAモビリティ2023」のプレスデー(一般公開は5-10日、ドイツ・ミュンヘン)、アフリカ気候サミット(ACS)(ナイロビ、6日まで)
- 9月5日(火)
・auじぶん銀行日本サービス業・複合PMI (8月)、家計支出(7月)
・第78回国連総会開幕(ニューヨーク)・19日から一般討論演説、ASEAN首脳会議(ジャカルタ)、豪中銀が政策金利発表
・米製造業受注 (7月)、S&PグローバルHCOBユーロ圏総合・サービス業PMI(8月)、ユーロ圏PPI(7月)、中国財新コンポジット・サービス業PMI(8月)、南アGDP(2Q)、韓国GDP(2Q)
- 9月6日(水)
・日銀の高田審議委員が下関市内で講演・記者会見、トヨタ新車発表会
・米ボストン連銀総裁講演、米ダラス連銀総裁イベント参加、米地区連銀経済報告(ベージュブック)公表、米トランプ前大統領ジョージア州での起訴で罪状認否手続き、カナダ中銀が政策金利発表、日・ASEAN首脳会議(ジャカルタ)、ASEAN+3(日中韓)首脳会議(ジャカルタ)、ブルームバーグCEOフォーラム(ジャカルタ)
・米貿易収支 (7月)、米ISM非製造業総合景況指数(8月)、S&Pグローバル米サービス業・総合PMI(8月)、ユーロ圏小売売上高(前月比) (7月)、独製造業受注 (7月)、豪GDP(2Q)
- 9月7日(木)
・日銀の中川審議委員が高知市内で講演・記者会見、ジャニーズ事務所の記者会見、対外・対内証券投資(8月27日-9月2日)、東京オフィス空室率(8月)、景気一致指数・景気先行CI指数(7月)
・米フィラデルフィア連銀総裁講演、米ニューヨーク連銀総裁イベントに参加、米アトランタ連銀総裁講演、米アトランタ連銀総裁イベントで講演、マレーシア中銀が政策金利発表、カナダトロント国際映画祭(17日まで)
・米新規失業保険申請件数(2日終了週)、米労働生産性(2Q)、ユーロ圏GDP(2Q)、独鉱工業生産(7月)、中国貿易収支(8月)、中国外貨準備高(8月)
- 9月8日(金)
・毎月勤労統計-現金給与総額(7月)、GDP(4-6月改定)、国際収支:経常収支(7月)、貸出動向(8月)、景気ウォッチャー調査 先行き判断・ 現状判断(8月)
・米卸売在庫(7月)、米消費者信用残高(7月)、米家計純資産変化(2Q)、独CPI(8月)、ロシアGDP(2Q)
- 9月9-10日(土–日)
・G20首脳会議(ニューデリー、10日まで、モルディブ大統領選、北朝鮮建国75年、中国CPI(8月)、中国PPI(8月)、中国経済全体のファイナンス規模・新規融資・マネーサプライ (8月、15日までに発表)、米大統領がベトナム訪問、インド太平洋経済枠組み(IPEF)首席交渉官会合(バンコク、16日まで)、ユネスコ世界遺産委員会(サウジアラビア・リヤド、25日まで)、 東方経済フォーラム(ロシア・ウラジオストク、13日まで)、ロシア地方選
(Bloombergをもとにフィリップ証券作成)
※本レポートは当社が取り扱っていない銘柄を含んでいます。
■大統領選サイクル3年目の米国株
米国株市場には、大統領選挙のサイクル(4年周期)との間に相関関係があるという「アノマリー」(理論的根拠があるわけではないが経験則上よく当たるとされる考え方)の存在が指摘される。選挙に伴い支持率を意識した政策が出されることなどが影響し、米中間選挙の年は安く、大統領選挙の年に向かって上昇するとされる。
21世紀に入って以降の大統領選サイクル3年目の株価推移を年初来ベースで見ると、2019年が最も好調で2023年も6-8月はほぼ同年をトレースしている。他方、サブプライム・ローンに係る「パリバ・ショック」の2007年、米国債格下げの2011年、「チャイナ・ショック」の2015年は夏~秋以降に相場が崩れている。商業不動産ローン債権、米国債格下げ、中国といった各々のリスクは現在の潜在的リスクでもある。
【大統領選サイクル3年目の米国株~足元は、絶好調だった4年前をトレース】
■中国製造業PMIに一部改善の兆し
中国国家統計局が31日発表した8月の製造業購買担当者景気指数(PMI)は49.7と前月より0.4ポイント上昇も5ヶ月連続で拡大・縮小の境目の50を下回った。雇用環境、および欧米の金融引締めが響いている新規輸出受注は低迷が続いているものの、生産が前月比1.7ポイント上昇の51.9,生産者物価が6ヵ月ぶりに50超え(52.0)へ、新規受注も5か月ぶりに50超え(50.2)と回復を示した。
中国当局は大型刺激策への慎重姿勢を崩していないものの、ここ数週間で消費財の製造や自動車販売を拡大する計画など的を絞った支援策を打ち出している。これによって製造業の購買担当者らのセンチメントは最悪期を脱しつつある面もある。外需に伴う新規輸出受注の50超えによる後押しが更に必要だろう。
【中国製造業PMIに一部改善の兆し~新規受注・生産・生産者物価が改善】
■日本株グロース投資の本命指数
東証株価指数(TOPIX)で時価総額上位500社を除く銘柄で構成する「TOPIXスモール指数」の終値が31日、1998年4月の算出開始以来の最高値を更新中だ。中国不動産大手企業の経営危機などを背景に外部環境の不透明感が強まる中で外需株を積極的に手掛けづらいことから、個人投資家を中心に内需かつ値動きが軽い小型株に資金が移行しているという見方がされているようだ。
親興企業中心に内需小型・グロース企業中心に構成される東証マザーズ指数は、岸田政権発足後の21年12月頃より急落。現在も低迷が続き、内需・グロースへの投資の受け皿となりにくい。また、TOPIXスモールの対TOPIX500への優位性として相場のアノマリー(経験則)の一種である「小型株効果」も考慮されよう。
【日本株グロース投資の本命指数~東証マザースよりTOPIXスモール指数か】
■銘柄ピックアップ
亀田製菓(2220)
4485 円(9/1終値)
・1957年に新潟県中蒲原郡亀田町で設立。菓子の製造販売を主な事業内容とし、国内米菓事業、海外事業、食品事業、および貨物運送等のその他事業を営む。せんべいなど米菓で国内首位。
・8/4発表の2024/3期1Q(4-6月)は、売上高が前年同期比4.6%減の222.22億円、営業利益が同44.0%減の6.99億円。前年同期の同業他社(三幸製菓)の工場火災に伴う代替需要の反動減のほか、長期保存食も前年同期に地震等の影響で高まった個人による消費も反動減の影響を受けた。
・通期会社計画は、売上高が前期比2.6%増の975億円、営業利益が同26.2%増の45億円、年間配当が同1円増配の56円。同社グループは8/28、「中長期成長戦略2030」を発表。ジュネジャCEOの下、国内米菓事業のみならず、海外事業や食品事業への先行投資や技術移転により展開国と事業領域拡大の中で国内外の提携活用でアセットライト・高収益事業モデルを目指すとしている。
クラレ(3405)
1689.5 円(9/1終値)
1926年に岡山県倉敷市で大原孫三郎(大原美術館の創設者)を社長として倉敷絹織(ケンショク)を設立。ビニルアセテート、イソブレン、機能材料、繊維、トレーディング、その他6事業部門を営む。
・8/9発表の2023/12期1H(1‐6月)は、売上高が前年同期比6.4%増の3809.98億円、営業利益が同7.6%増の409.70億円。売上構成比52%のビニルアセテートは売上高が同7%増、営業利益が同20%増と堅調のほか、活性炭等環境ソリューション含む機能材料が同20%増収、74%営業増益。
・通期会社計画は、売上高が前期比7.1%増の8100億円、営業利益が同3.6%減の840億円。年間配当を上方修正。同6円増配の50円(従来計画:48円)とした。岐阜県各務原市で水源地から国の暫定目標値を超える有機フッ素化合物(PFAS)を検出。市は水源地に活性炭を使った除去システム導入を発表した。ディールラボ社によれば同社は2020年の活性炭世界シェアが約20%の首位。
日本製紙(3863)
1308 円 (9/1終値)
・1949年に旧王子製紙の第2会社(十條製紙)を継承。紙・板紙事業、生活関連事業、エネルギー事業、木材・建材・土木建設関連事業を主な事業とする。スコッティ、クリネックスの家庭紙で有名。
・8/7発表の2024/3期1Q(4-6月)は、売上高が前年同期比8.6%増の2874.24億円、営業利益が前年同期の▲29.24億円から8.12億円へ黒字転換。各種製品の価格引上げ寄与により増収。原価改善や固定費削減により営業黒字化。グラフィック洋紙事業撤退に係る特別損失計上で最終赤字。
・通期会社計画は、売上高が前期比6.7%増の1兆2300億円、営業利益が前期の▲268.55億円から240億円へ黒字転換。同社は8/30、東京都北区王子の商業施設の土地と建物を売却し、24年3月期の特別利益に固定資産売却益約254億円計上と発表。業績改善に加え、非中核事業資産の現金化に伴う純有利子負債額減少による財務健全化もPBR(株価純資産倍率)上昇に寄与しよう。
ほくほくフィナンシャルグループ(8377)
1331. 5 円 (9/1終値)
・2003年に北陸銀行(富山県)と北海道銀行の経営統合により設立。北海道、北陸3県を中心に広域地域金融グループを形成。銀行業務ほか証券・リース・クレジットカードからソフトウェア開発等まで展開。
・7/31発表の2024/3期1Q(4-6月)の2行合算ベースは以下の通り。コア業務粗利益が役務取引等利益増も外貨調達費用増に伴う資金利益減少が響き、前年同期比12.8%減の279.93億円。コア業務純益は同31.0%減の89.83億円。国債等債券損失や与信費用減少も、経常利益は同18.8%減。
・通期会社計画(連結ベース)は、経常利益が前期比1.5%減の260億円、当期利益が同20.7%減の170億円、年間配当が同横ばいの37円。5%賃上げやシステム関連経費増が減益主要因。最先端半導体製造を目指すラピダスが今年9月に北海道千歳市で工場着工予定。更に北海道は不動産も訪日外国人から人気。新幹線延伸で金沢・敦賀24年開業のほか函館・札幌も30年開業目標。
CPオール(CPALL)
市場:タイ 65.5 THB(8/31終値)
・1988年にタイ最大財閥チャルーン・ポーカパン・グループにより設立。セブンイレブン運営のコンビニ事業のほか「Siam Marko」のキャッシュ&キャリー事業、スーパー「ロータス」の小売・モール賃貸事業を営む。
・8/10発表の2023/12期2Q(4-6月)は、売上高が前年同期比8.5%増の2320億THB、純利益が同47.7%増の44.38億THB。2020年末に英テスコから買収したロータスが増収に貢献したほか1日当たり延べ来店客数増に伴い既存店売上高が同8%増。6月末店舗数も同6%増の1万4215店へ拡大。
・1-6月のセグメント別ではコンビニ事業とキャッシュ&キャリー事業が前年同期比で増収増益と堅調なのに対し、ロータスは増収・減益。オンラインとオフラインの両プラットフォーム強化による相乗効果で改善が期待されよう。また、成長エンジンと捉える海外進出は、カンボジアの6月末店舗数が66店(3月末比12店増)で23年末目標100店舗に向けて進捗。ラオスにも年内1号店出店計画である。
■アセアン株式ウィークリーストラテジー
(9/4号「シンガポールは競馬場を閉鎖して再開発」)
シンガポールは人口が2021年で550万人に対し、面積が約720平方キロメートルと東京23区を上回るにとどまる。そのようななかで、先日、シンガポールの競馬場が住宅地などに再開発する目的で来年10月のレースを最後に閉鎖するというニュースが報道された。シンガポール競馬場はイギリスの植民地時代から約180年の歴史があり、国際G1のシンガポール航空国際カップは日本でも知られていた。土地が狭い中で政府は出生率の引き上げや外国籍の専門的人材に国籍を開放することによって、2030年までに650~690万人まで人口を増やすという計画がある。そのためには住宅が必要で、人口と住宅が増えれば娯楽や商業施設も必要となるだろう。シンガポールは不動産の価値上昇とともに通貨も買われやすい構造的な側面もあると言えるだろう。