投資戦略ウィークリー 2023年6月19日号(2023年6月16日作成)】”1990年3月12日来高値~史上最高値から46営業日後” June 22, 2023
■“1990年3月12日来高値~史上最高値から46営業日後”
- 日経平均株価は先月17日に終値で3万円を上回って21日営業日後の今月15日、1990年3月12日以来となる3万3767円まで上昇。その46営業日前の1989年12月29日に史上最高値の3万8957円を付けていた。これらの事実を結びつけると、遠くない将来に史上最高値を更新するのでは?という気持ちになっても不思議でないかもしれないが、焦って上値を追いかける買い方は禁物だろう。
- 他方、早めに売却して利益を出したもののその後大きく値上がりして後悔をすることも、投資を続けていれば誰もが経験しがちなことでもある。ローソク足や罫線、出来高、信用倍率などの需給関係の見方について基本的な理屈を押さえたうえで、売りと買いの勢いの変化・動向を見ていくことも投資の上では必要かもしれない。
- 現在の日本株買いの中心となっている海外投資家の買い要因をまとめると、第1に東証がPBR(株価純資産倍率)1倍割れの是正を要請したこと、第2に米中摩擦を背景にしたサプライチェーンの再構築に絡み、半導体を中心に日本への直接投資の流れが強まったこと、第3に賃金上昇と物価上昇の好循環に向けた期待が高まってきていることといった3つのポイントが挙げられる。これらによって、「失われた30年」からようやく日本が抜け出せるのではないかという期待が膨らんだことが大きいだろう。
- 東証は5月、「JPXプライム150指数」の構成銘柄および算出要領が確定したと発表。その中で国内時価総額首位のトヨタ自動車(7203)がPBR要件を満たさないために除外され、市場参加者に驚きを与えた。そのためトヨタの株価が不当に安く放置されていると見られたのか、同社株価は長電池寿命「全個体電池」搭載電気自動車(EV)投入方針を受けて13日と14日に急騰。PBR1倍を超えた。日本を代表する企業がPBR1倍に満たない場合、同1倍を意識した動きの拡がりが期待されよう。業界トップに追随してPBR1倍超えの裾野が広がることで日本株全体の株価底上げが期待される。
- これからは徐々に足元の現実を意識する局面に入っていくことが考えられる。岸田首相は15日、今の国会での衆議院の解散はしない方針を表明。強い基盤の長期政権による政治の安定を求める海外投資家にとってはマイナス要因だろう。また、「賃金と物価の上昇の好循環」に関し、4月の毎月勤労統計調査では期待インフレ率を差し引いた実質賃金伸び率が前年同月比マイナス0%と春闘の恩恵がみられなかった。足元の現実と海外投資家の期待とは距離がありそうだ。「日本買い」一服後は米国株市場の動向に左右されやすい展開への回帰が考えられよう。(笹木)
6/19号では、ライト工業(1926)、ソニーグループ(6758)、ふくおかフィナンシャルグループ(8354)、名古屋鉄道(9048)、CSOP iEdge S-REIT リーダーズ指数ETF(SRT)を取り上げた。
■主な企業決算の予定
- 6月19日(月):コーセル
- 6月20日(火): (米)フェデックス
- 6月21日(水): サツドラホールディングス
- 6月23日(金):ツルハホールディングス、(米)アクセンチュア
■主要イベントの予定
- 6月19日(月)
・首都圏新築分譲マンション(5月)
・米休場(奴隷解放記念日「ジューンティーンス」の祝日で)、米国務長官が訪中終えて英国に(21日まで)、金融活動作業部会(FATF)(パリ、23日まで)、中国首相がドイツとフランス訪問(18-23日)、チリ中銀政策金利、仏パリ航空ショー(25日まで)
・米NAHB住宅市場指数 (6月)
- 6月20日(火)
・設備稼働率(4月)、鉱工業生産(4月)、コンビニエンスストア統計(5月)、工作機械受注(5月)、株主総会(日本電産、ANAHD、デンソー、商船三井)
・米セントルイス連銀総裁・米ニューヨーク連銀総裁が講演、中国1年・5年物プライムレート(LPR)
・米住宅着工件数 (5月)
- 6月21日(水)
・通常国会会期末、日銀金融政策決定会合議事要旨(4月27・28日分)、日銀の安達審議委員が鹿児島県金融経済懇談会で講演・記者会見、オービーシステム・東証スタンダードに新規上場、シーユーシー・東証グロースに新規上場、株主総会(ホンダ、スバル、日立、日本郵船、ソフトバンクグループ、三井物産、フジテック)、訪日外客数(5月)
・米FRB議長が下院金融委員会で証言、米シカゴ連銀総裁が講演、インド首相が訪米スタート、ブラジル中銀政策金利、ウクライナの復興に関する会議(ロンドン、22日まで)
・欧州新車販売台数(5月)、英CPI(5月)
- 6月22日(木)
・日銀の野口旭審議委員が沖縄県金融経済懇談会で講演・記者会見、SMBC日興証券の相場操縦事件公判、リアルゲイトとアイデミーが東証グロースに新規上場、株主総会(NTT、三菱自、コスモエネ)、対外・対内証券投資(6月11-17日)、日銀営業毎旬報告(6月20日現在)、スーパーマーケット販売(5月)、月例経済報告(6月)
・米FRB議長が上院銀行委で証言、米クリーブランド連銀総と米リッチモンド連銀総裁が講演、インド首相が米議会で演説・公式晩さん会に出席(ワシントン)、ブルームバーグ・テクノロジー・サミット(サンフランシスコ&オンライン)、メキシコ中銀・スイス中銀・ノルウェー中銀・トルコ中銀・フィリピン中銀・インドネシア中銀の政策金利、英中銀が政策金利・議事要旨、 中国休場(端午節の祝日で、26日取引再開)、香港休場(端午節の祝日で)
・米経常収支(1Q)、米新規失業保険申請件数 (17日終了週)、米中古住宅販売件数 (5月)、米景気先行指標総合指数(5月)、ユーロ圏消費者信頼感指数 (6月)
- 6月23日(金)
・ARアドバンストテクノロジが東証グロースに新規上場、株主総会(みずほFG、JAL、スズキ、川崎汽船、三菱商事、伊藤忠、丸紅、住友商事)、全国CPI(5月)、auじぶん銀行日本サービス業・日本製造業・日本複合PMI(6月)、全国百貨店売上高(5月)、東京地区百貨店売上高(5月)
・米セントルイス連銀総裁講演(ダブリン)、米クリーブランド連銀総裁がイベント閉会挨拶
・S&Pグローバル米製造業・サービス業・総合PMI(6月)、S&PグローバルHCOBユーロ圏製造業・サービス業・総合PMI(6月)
(Bloombergをもとにフィリップ証券作成)
※本レポートは当社が取り扱っていない銘柄を含んでいます。
■米短期国債大量発行と米国株
米政府の債務上限停止でデフォルトが回避されたことで米財務省は年内に1兆ドル規模の短期国債発行を見込んでいる。財務省の指針によれば現金残高を6月末までに4250億ドル、9月末までに6000億ドルまで戻すとされる。MMF(マネー・マーケット・ファンド)などの買い手が想定されるものの、保険で守られない25万ドル超の大口の銀行預金から大型ハイテク株に逃避していたとみられる資金が政府に吸い上げられる懸念も出てくる。
ナスダック総合指数と政府現金残高との相関関係を見ると、過去3年間では昨年の5-12月を除くと逆相関の関係がみられる。現在の財務省現金残高は21年12月近辺と同水準だ。米短期国債大量発行による政府現金残高の増加は大型ハイテク株売りに繋がる可能性があろう。
【米短期国債大量発行と米国株~米財務省現金残とナスダック逆相関傾向】
■ドル円相場と円売りポジション
ドル円相場は。米国14日のFOMC(公開市場委員会)で利上げ停止も年内2回分の利上げ見通しが示されたことを受けて15日に1ドル141円台へ、16日に日銀金融政策決定会合の発表を受けて同142円台へと円安が進行した。6/7時点でのIMM(シカゴ通貨先物市場)の投機筋(非商業)ポジションの売り越し枚数は前週比8624枚の増加で10万4817枚と、10/25以来の10万枚超えとなった。
現在の円売りポジションは一時1ドル150円を超える円安ドル高となった10/21を含む週と同程度の円売りポジションが膨らんでいることを意味する。過去10年間の円売りポジションの最大枚数は2013年12月最終週の14万3822枚であり、ポジションの観点からは現在以上に円売りを増やす余地が限られる面もあろう。
【ドル円相場と円売りポジション~投機筋円売りポジション枚数は足元膨らむ】
■アップルのMRヘッドセットが登場
米アップル(AAPL)が6/5、開発者向け会議「WWDC 2023」でウェアラブルのMR(複合現実)ヘッドセットである「Vision Pro」を発表。高価格だが、ティム・クックCEOは「Vision Proh空間コンピューティング技術を世に紹介するだろう」と、iPhoneがモバイル・コンピューティングを浸透させたことを彷彿させる熱の入れようだ。
その部品で重要な位置を占めるマイクロ有機EL(OLED)ディスプレイをソニーG(6758)が受注。また、Vision Proが任天堂(7974)関連のテーマパークで使われているARヘッドセットと関わる可能性も出てきた。両社はゲーム業界で覇を競うライバルだが、Vision Proで接点を持つ可能性もありそうだ。両社の株価は、半導体関連の人気銘柄と比較して出遅れとして見直される余地もあろう。
【アップルのMRヘッドセットが登場~競合のソニーと任天堂に接点の可能性】
■銘柄ピックアップ
ライト工業(1926)
1,921 円(6/16終値)
・1948年に仙台市で設立。技術力に定評がある専業土木工事(斜面・法面対策工事、基礎・地盤改良工事、補修・補強工事、環境修復工事)、一般土木工事、および建築・その他工事を営む。
・5/11発表の2023/3通期は、売上高が前期比5.0%増の1149億円、営業利益が同3.4%減の127億円。防災・減災、国土強靭化やインフラ老朽対策など高水準の政府建設投資を受け、受注高は同7.3%増の1179億円。利益面では減価償却費増と資機材価格高騰、人件費増が響き営業減益。
・2024/3通期会社計画は、売上高が前期比2.6%増の1180億円、営業利益が同3.2%増の132億円、年間配当が同3円増配の64円。防災・減災、国土強靭化中心の予算執行が見込まれる。気象庁は9日、南米ペルー沖の海面水温が高くなり、世界的な異常気象の原因とされる「エルニーニョ現象」が発生したとみられると発表。温暖化も加わることで異常気象が発生しやすい面があろう。
ソニーグループ(6758)
13,765 円(6/16終値)
・1946年に東京通信工業として設立。ゲーム&ネットワークサービス(G&NS)、音楽、映画、エンタテイメント・テクノロジー&サービス(ET&S)、イメージング&センシング・ソリューション(I&SS)、金融およびその他事業から構成。
・4/28発表の2023/3通期は、売上高が前期比16.3%増の11兆5398億円、営業利益が同0.5%増の1兆2082億円。G&NSが同32%増収、音楽が同24%増収、映画が同10%増収、ET&Sが同6%増収、I&SSが同31%増収、金融が同6%減収。音楽、I&SS、金融の3事業セグメントが営業増益。
・2024/3通期会社計画は、売上高および金融ビジネス収入が前期比0.3%減の11兆5000億円、営業利益が同3.2%減の1兆1700億円。ゲーム機「PS5」の販売伸びを見込む。企業価値向上の目指し金融事業子会社の分離上場を検討開始。米アップルが開発者会議で発表したMRヘッドセット「VisionPro」で重要な位置を占める部品(マイクロ有機EL(OLED)ディスプレイ)を同社が受注した。
ふくおかフィナンシャルグループ(8354)
2,815 円(6/16終値)
・2007年に福岡銀行と熊本ファミリー銀行(現在は熊本銀行に改称)の統合により設立。同年に親和銀行を経営統合。2019年に十八銀行を経営統合後、2020年に長崎県で十八親和銀行を発足。
・5/12発表の2023/3通期は、3行単体合算コア業務純益が前期比8.5%増の1058億円、信用コストが同86%増の58億円、当期利益が同43.5%減の311億円。資金利益や役務取引等利益の増加および経費減少でコア業務純益増加も、有価証券ポートフォリオ再構築に伴う損失計上が響き減益。
・2024/3通期会社計画(3行単体合算ベース)は、コア業務利益が前期比3.9%増の1100億円、経常利益が同59.6%増の1100億円、年間配当が同10円増配の115円。世界最大の半導体ファウンドリ台湾TSMCが熊本へ工場進出。関連サプライヤー集積もあり追い風を期待。モバイル専業銀行「みんなの銀行」3月末の12月末比は、口座数が16%増、預金残が9%増、貸出残が43%増と堅調。
名古屋鉄道(9048)
2,342 円(6/16終値)
・1921年設立の中部地方を地盤とする私鉄大手。交通(鉄道・バス・タクシー)事業のほか、運送、不動産、レジャー・サービス(ホテル・「明治村」他)、流通、航空関連サービスなど各事業を営む。
・5/11発表の2023/3通期は、営業収益が前期比12.3%増の5515億円、営業利益が前期29億円から227億円へ拡大。事業別営業収益は、交通事業が同15%増の1324億円、運送事業が同2%増の1369億円、不動産事業が同8%増の969億円、レジャー・サービス事業が同70%増の810億円。
・2024/3通期会社計画は、売上高が前期比6.6%増の5880億円、営業利益が同16.6%増の265億円、年間配当が同5円増配の25円。今年3月、米タイム誌が2023年度版「世界の最も素晴らしい場所」を発表。世界各地の50の観光地が選ばれた中で日本からは京都とともに名古屋が選出。スタジオジブリのテーマパーク「ジブリパーク」と知多市の「サントリー知多蒸留所」がピックアップされた。
CSOP iEdge S-REIT リーダーズ指数ETF(SRT)
市場:シンガポール 0.856 SGD(6/15終値)
・SGX上場のリート(S-REIT)の内、流動性・浮動株比率・浮動株時価総額上位銘柄から構成の「iEdge S-REITリーダーズ指数」の価格および費用控除前利回りに概ね連動する投資成果を目指す。
・6/5終値基準での同指数の予想分配金利回りは6.1%と、シンガポール株のST株価指数の予想配当利回り5.2%、東証リート指数の予想分配金利回り4.05%を上回る。市場予想のシンガポールCPI上昇率が25年にかけて低下に対し、賃料の遅行性から同指数予想分配金利回りは上昇見通し。
・同指数を構成するS-REITのセクターは、物流と倉庫を含む「産業施設」、「オフィス」、「商業施設」、「データセンター」、「ヘルスケア」、「ホテル/ホスピタリティ」等多岐にわたり、分散投資効果による価格変動性の低下が期待される。また、同指数を構成するS-REITが投資する不動産所在地はシンガポールに限定されず豪州、米国、中国本土、英国に及び、投資機会に恵まれている点も魅力だ。
■アセアン株式ウィークリーストラテジー
(6/19号「シンガポールの中央積立基金(CPF)④」)
前回、CPFの積立金運用に関する利回りが保証され、口座種類ごとに異なると述べた。普通口座では、大手地場銀行の3ヵ月平均預金金利または2.5%のいずれか高い金利が支払われる。特別口座とメディセイブ口座では、10年物シンガポール政府債の12ヵ月平均利回りに1%を加えた金利または4%のいずれか高い方が支払われる。退職口座では、10年物シンガポール政府債の12ヵ月平均利回りプラス1%、または4%のいずれか高い方が支払われる。
積立金のうち、6万SGD(内、普通口座は2万SGD)を上限として1%金利が追加で支払われる。更に、55歳以上の加入者を対象として、3万SGD(内、普通口座は2万SGD)を上限として1%金利が上乗せされる。つまり、保証される最高金利は普通口座で4.5%、その他口座で6%の水準に上る。